青く晴れ渡る雪原。静かな冬の畑に広がるのは動物たちの足跡。
エゾシカの足跡をたどり、深い雪をかきわけながら斜面を登ると、枝先にぽつりと実が残るりんごの木が見えてくる。
「まず食べてごらん。」
手の平に乗せられたのは、茶色くシワの寄った果実。固い皮をかじると、じゅわっと果汁が溢れこぼれ落ちる。
軽い暑さと渇きを覚えた喉に染み込むのは、爽やかで甘い液体。濃厚なりんごジュースのようでいて、軽やかで清々しい。
「甘いだろ。これが『凍み(しみ)りんご』なの。」
りんごの町、余市。
今回の余市ストーリーは、厳冬の頃、静かに眠るりんご畑で出会える、『凍みりんご』のお話です。
凍みりんごができるまで
『凍みりんご』を教えてくれたのは、余市すこやか自然農園の澤田さん。
余市の人も知る人ぞ知る『凍みりんご』。この濃厚で爽やかな実がどうやってできるのか、教えてくれました。
「りんごの木の枝先とか目立たない場所に、手が届きづらくて収穫しなかったりんごや、取り忘れのりんごがこんな風に残るでしょ。冬の寒さが厳しくなると、りんごが凍ったりとけたりを繰り返すんだ。そうしたら余分な水分が抜けて、味の濃い『凍みりんご』になる。しばれる頃がよりうまくなるんだよ。
実は生のより柔らかくてジューシーだね。見た目は良くないけど、茶色い実の方が味が凝縮されてうまいんだ。品種は軸が固くて落ちにくい、『ふじ』が多い。」
縮んで茶色くなった凍みりんごの断面
果汁が溢れこぼれ落ちた
冬の楽しみ
澤田さんは懐かしそうに話します。
「子供の頃は、スキーで2キロ先にある学校に行くのに、りんご畑のある山を通っててね。途中で暑くなって喉が渇くから、畑の『凍みりんご』を採って食べたもんだよ。おいしかったなぁ。」
「これからもっと雪が降るだろ。2月になると雪が締まって、それでも木の幹の半分くらいまで積もるでしょ。そうしたら高い枝にも手が届くようになって、採りやすくなるの。」
冬の剪定時に、喉を潤す『凍みりんご』。
「やっぱり楽しみだよね。休憩して食べると、いやぁうまいなぁ!と思うよ。同じようにできる『凍みぶどう』も美味しいけど、『凍みりんご』はうまいなぁ。」と澤田さん。
木の幹には、畑を行き交う鹿の食べ跡もあります。りんごの枝先にできる新芽は鹿の好物で、食べられて先が切れている枝も見受けられます。
「けどね、北海道では枝先の新芽は摘果で落とすから、鹿にやってもいいんだ。」
「自然のなかに、人間が居させてもらってるからね。」
そう言って微笑む、農園の皆さん。
寒さの厳しい季節、冷たい空気のなかで味わう冬の畑の贈り物。
『凍みりんご』の季節が過ぎる頃、余市は群来(くき)の春を迎えます。