【読み物】人の想いと土地の縁が織り成す播州織Yoichiタータン

【読み物】人の想いと土地の縁が織り成す播州織Yoichiタータン

赤・青・白の格子柄の折生地、余市タータンの写真

りんごやさくらんぼの赤、余市の沖の海の青、波や雲の白。目にも鮮やかなこの格子柄は、英国スコットランドのタータン登記所に正式登録されたタータン「Yoichi(余市)」です。

 

 

赤・青・白のタータンチェックの余市タータン生地の画像

 

 

2022年冬、余市観光協会では、播州織(ばんしゅうおり)のタータン生地の販売を開始しました。播州織は兵庫県多可町の歴史的な地場産業で、糸を先に染め、染め上がった糸で柄を織る「先染織物(さきぞめおりもの)」です。織り柄、厚さ、肌触り、彩りの多様性に優れた高度な技が特徴の織物です。

今回の余市ストーリーは、余市で生まれたYoichiタータンが、多可町で織り上げられるまでの物語。色鮮やかな織物には、タータンを通じて育まれたあたたかな交流と、人の想いが織り込まれていました。

 

 

タータンサミットin多可町の写真

 

 

YOICHIタータン

余市観光協会では、ニッカウヰスキー創業者竹鶴政孝氏の妻リタさんの故郷スコットランドの暮らしに深く根付くタータンを余市の観光に活用しようと、2017年にYoichiタータンデザインコンテストを実施。町内の小学生が考案したデザインが町民投票によって選ばれました。

 

 

Yoichiタータンのイメージ画
りんごやさくらんぼの赤、余市の沖の海と空の青、雲や波の白

 

 

赤・青・白は余市の文化や風土を表現した色。町の人にも、余市を訪れる人にも愛されるようにと願いが込められたタータンです。これまで駅前にタータンをあしらった旗を掲げたり、エルラプラザでタータン柄のマスクや小物、お菓子を販売したりと、Yoichiタータンの存在をPRしてきました。

 

 

JR余市駅前に掲げられた赤・青・白の余市タータンの旗の写真
JR余市駅前に掲げられたYoichiタータンの旗

 

 

染めのタータン、織りのタータン

タータン旗やマスクの布を制作したのは、余市の染め物屋さんであり、余市観光協会会長でもある「ささなみ染色工芸」の笹浪淳史さんです。以前の余市ストーリーでも紹介していますが、旗はシルクスクリーンというプリント技法で布を染める「染め物」で表現していました。

 

 

赤い余市タータンの布の上に、マスクやジャム、チョコレートが載せられた写真
プリント技法で作られたYoichiタータンアイテム 

 

 

タータンの生地といえば、一般的には色を染めた糸を織り上げて作る「織り物」のことをさします。そのため観光協会と淳史さんのなかで、いずれは本格的な「織り物」のYoichiタータンができたらという思いがありました。けれど町内近隣には専門の織物業者がいないことから、実現することはなく時が流れていました。

 

一本の電話

転機となったのは2021年の冬。兵庫県多可町から余市観光協会にかかってきた一本の電話でした。それは多可町観光交流協会の小林弥生さんからでした。多可町も町オリジナルのタータン「タカタータン」をもっており、多可町で開催する「タータンサミットin多可町」にパネリストとして参加しませんかというもの。一行は2022年3月に多可町へ飛び、そこからタータンを育む者同士の交流が始まったのです。

 

 

タータンサミットin多可のパンフレット画像

 

タータン生地を背景に赤い余市タータンの小物を持って立つ、1人の女性と二人の男性の写真
サミットを企画運営した多可町役場の小林さん(左)、笹倉さん(中)、金高さん(右)

 

余市と多可の共通点

サミットでは、播州織の織り元の方々との交流もあり、播州織の歴史と新しい動きについて教わりました。

多可町は播州織の産地として江戸時代中期より発展。近代に入ってからもシャツなどの生地生産で隆盛を極めました。昭和初期には「ガチャ萬(織機が一度『ガチャ』と鳴ると一万円儲かる)」と言われたこともあったそうです。けれど近年、安価な輸入生地の台頭により産業が失速。播州織の事業者も減少していきました。

また、高品質な製品を作っても商品タグには「播州織」と表記することはできず、アパレルメーカーのブランドタグとMade in Japanが表示されるだけで、播州織というものが表に出ることはなかったとのこと。国指定の伝統工芸品への認定登録も試みましたが、原料の綿や毛が現地調達されていなければならないという当時の基準に達することができず、認定を受けることができなかったそうです。

 

 

大きな木製テーブルを囲み談話する多可町の播州織の皆さんと余市観光協会の写真
多可町で播州織の織り元の皆さん(右)と談話する余市観光協会(左)

 

 

こうした背景があり、近年、若手の播州織業の織り元を中心に、自分達の播州織ブランドを立ち上げ、播州織としての知名度を上げよう、質やデザイン性の高さ、織り技術の多様さを広めよう、という動きが生まれています。その流れのなかで誕生したものの一つのが、タカタータンなのだそうです。

 

 

タカタータンアイテムの写真
緑を基調とし多可町の風土の色を織り込んだタカタータン

 

 

こうした多可町の地場産業、播州織の「独立」にまつわる流れは、余市町のワインぶどう産地としての歴史と重なる、という話になりました。

余市も、りんご栽培の技術をもとに昔からワイン用ぶどうの生産が盛んだったものの、醸造メーカーのブランド名がつけられて流通することがほとんどであり、余市の名前が表に出ることは長らくありませんでした。「メイドイン余市」「 余市のワイン」として名前が世に出るようになったのは、最近のことです。

余市と多可。地域としてのアイデンティティの再認識と、地域ブランドの再構築の途上にある町同士として、ともに協力し、それぞれの町と産業・文化の知名度向上に繋げよう。

その一歩として、余市のタータンを播州織で作ろう、と、播州織Yoichiタータン制作のプロジェクトが発足したのです。

 

 

タータンサミットで大勢の人を前に話す余市観光協会の写真
織物関係者、タータン愛好家など様々な人の意見が飛び交った

 

誕生!播州織YOICHIタータン

サミット終了後、播州織のYoichiタータン生地制作が始まりました。生地作りは余市観光協会にとって、初の試みです。手探りで進めるなか、多可町の絲結(いとむすび)さんの設計、播磨染工さんの染糸、川上織物さんの織りなど、多可の皆さんのご協力によって、ラージチェック、ラージチェック起毛、ミディアムチェック、スモールチェックの4種類の生地が誕生。播州織Yoichiタータンのお披露目となりました。

 

赤・青・白の余市タータンの写真
左からミディアムチェック、スモールチェック、ラージチェック

4種類の生地は同じ染め糸を使用しています。柄の細かさ、生地の種類により糸の撚り方や使用する糸数、織り方を変え、バラエティ豊かな生地が仕上がりになっています。

お披露目と同時に、町内のハンドメイド作家さんや事業者の皆さんのアイディアにより、タータン生地を使った小物も制作。余市の町で、新たな商品開発のプロジェクトも始まっています。

 

 

タータン生地アイテムの写真
ターバンやイヤリング、キャップなどの服飾小物

 

 

 また余市のワインぶどうの搾りかすの皮を使い、多可町でタータンの糸を染める試みなど、余市と多可、それぞれの人の出会いとアイディアから、様々な広がりを見せています。

余市の宝の色で糸を染め、人の想いと土地の縁が縦横の糸となり誕生した播州織のYoichiタータン。その冒険の物語は今、始まったばかりです。

撮影・文 田口りえ

雪を帽子のようにかぶった余市の赤いりんごの写真

関連記事:染めで表すYoichiタータン

関連記事: Yoichiタータン

 

 

yoichiタータン 播州織生地 ラージチェック起毛

 

 

yoichiタータン 播州織生地 スモールチェック

 

 

 

yoichiタータン 播州織生地 ミディアムチェック

 

 

 

yoichiタータン 播州織生地 ラージチェック

最近の投稿