鮭帰る 余市川の秋

鮭帰る 余市川の秋

 

河口から4キロ。海も見えない川岸に、磯の匂いが強く漂う。上空には飛び交うカモメ、川面に覗く三角の背びれ。

近づくと檻の中、バシャバシャ跳ねる鮭、鮭、鮭。目をこらせば川いっぱいに群れている。

 

 

余市川のウライの中で飛び跳ねる鮭

 

 

余市の人と風土の物語、余市ストーリー。今回は秋深まる頃、余市川に帰る鮭を巡るお話です。

 

 

余市川の魚道をのぼる鮭の写真

 

鮭と鮎の帰る川

町の中央をゆったりと流れる余市川は、鮎の生息する北限の川として知られています。

鮎釣りの季節が過ぎて、ふと肌寒さを覚える9月下旬から10月の末。隣町の仁木町との境に架かる鮎見橋のすぐ側で、鮭の遡上を間近に見ることができます。

 

 

青空と雲、木立の中央を流れる余市川中流の写真

 

 

川を仕切るように並ぶのは「ウライ」と呼ばれる漁の仕掛け。この仕掛けで余市川を遡る鮭を檻に誘導し、食用や孵化のための鮭を捕獲します。

 

 

余市川に仕掛けられたウライ(鮭漁の仕掛け)の写真
9月から11月下旬まで設置されるウライ
鮭が白い板に沿って進むと捕獲檻に誘い込まれる仕組み

 

 

「ウライ」のほど近く、パークゴルフ場の一角にある余市さけます孵化場では、遡上した鮭を捕獲し採卵、孵化と放流を行っています。この孵化場で20年近く作業に携わる久保田幸光(ゆきみつ)さんにお話を伺いました。 

 

 

さけます孵化場の生け簀を上る鮭の写真
孵化場の生け簀
川横の魚道を上ってくる鮭が勢いよく飛び上がる

 

地域全体で育てる

「鮭の遡上は、昔は夜の間だったけど今は日中に上がってくるようになったんだよ。理由は分からない。それで昼間でも鮭の遡上が見られるようになったんだ。」

 

 

雄の鮭を手づかみする写真
婚姻色と呼ばれる赤色が腹に現れた雄の鮭
海では銀色の体が川に上ると赤くなるが
確かな理由は分かっていないという

 

 

卵の孵化に重要なのは水質と水温だと、久保田さんは教えてくれました。産卵後、積算温度が480℃になると孵化するのだそうです。

「鮭の卵はね、9月末から10月にかけて余市で採卵、京極町の孵化場へ送られ、水質良好で水温が安定している地下水で大切に育てる。積算温度が430℃になる頃に卵は再び余市へ戻されて、480℃に達した1月頃、ふ化するというサイクル。」

 

 

芝生の敷かれた孵化場を背景に笑顔で立つ久保田さんの写真
漁業組合で40年勤務ののち孵化業務に携わる久保田幸光さん

 

 

生まれた稚魚は余市の地下水で育てられ、鮭の餌となる沖合のプランクトンの活動が盛んになる海水温6.5℃~7℃に達する3月、余市川に放流するそうです。「だから一年の半分以上は鮭のことで頭がいっぱいだよ。」久保田さんは笑いました。 

自然産卵に任せない理由をたずねると、「人工孵化の稚魚になる確立は80%。自然産卵より高いんだ。余市は採卵や孵化の実績が評価されていて、古平などの周辺の町から余市での採卵に集約されるようになったんだよ。後志(しりべし)地域全体で鮭を育てている。」そう教えてくれました。

 

 

鮭の腹から筋子を取り出す手といくらの写真
採卵はすべて手作業

 

 

漁獲量は年々増えているそうです。「2022年は過去最高の60,000尾。10月が最も多くて、下旬にかけて増える。今年は海水温が高いせいか海の鮭は少ないけど、川にのぼる鮭の数は今のところ平年並みだね。」

 

 

棚に所狭しと並ぶ鮭の写真
捕獲した鮭を手際よく雄雌に分別していく

 

家庭の味

鮭が遡上する頃、町の鮮魚店には大きな生筋子が並びます。

 

 

氷の台の上に並ぶパック入りの生筋子の写真

 

 

この時期旬のいくら醤油漬け。余市では自分で漬ける家庭の味です。いくらの入った袋をぬるま湯につけて丁寧に取り除き、手製のたれに漬け込みます。味付けは醤油のみだったり、酒やみりんを入れたり。たれを煮詰める派や煮詰めない派など、それぞれの家ごとに色合いも味わいも異なるのが面白いところです。

 

 

ガラストレイに入れられたいくら醤油漬けの写真

「今夜漬けようかな」「昨日食べたよ」「今年はうまくいった」

こんな会話が楽しげに交わされ、木々が色づく頃。

霧が立ち、余市の秋は深まっていきます。

 

 

余市川さけます孵化場と書かれた看板と木彫りの鮭の写真
余市郡漁協ふ化場
余市町山田町718

 

撮影・文 田口りえ

※鮭の無断補漁は法律で禁じられています

 

 

鮭とばの商品画像

 

棒丸内海商店 鮭とば

 

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