ひとくち含むと軽やかでサクサクした食感、じゅわっとしみ出す濃いりんごの果汁、鼻に抜けるフルーティな香り。
今回の物語は、素朴な味の良さを知ってほしいという願いを込めて作られた、余市産ドライフルーツにまつわるストーリー。余市が好きで移住した人、余市という土地の力、それぞれの縁が繋いだお話です。
町の真ん中を流れる余市川の左岸。東南に緩やかに開け、初夏には金色の光が差し込む豊丘エリア。
目の前に広がるのはふわふわの雪と広大な果樹園。ここが今回の舞台となるすこやか自然農園株式会社の農場です。
りんごをメインとするドライフルーツ造りは、この静かな雪の季節に最盛期を迎えます。
すこやか自然農園は、有機農法に取り組む企業の余市農場。
町内の数カ所に24ヘクタールの農場をもち、できるだけ減農薬で、化学肥料に頼らない農業を実践しています。自然農園では、収穫したりんごのうち形が不揃いだったり少し傷があっても生食用と変わらない品質のりんごを冷蔵貯蔵。甘みが増した果実を冬期にドライフルーツとして加工しています。
今回お話を伺ったのは、取締役の澤田光昭さん(左下)、ドライフルーツ加工を手がける社員の本間朋子さん・康弘さんご夫妻(右上下)と、堀川美奈子さん(左上)です。
ドライフルーツ作りの始まり
前進の農事組合法人の時代から経営に携わる澤田さん。以前からたくさんとれるリンゴの加工品を造ろうと検討してきたものの、販路確保が難しく、なかなか商品化に至らなかったそうです。
澤田さんが商品化の道を探り続けるなかで辿り着いたのが、ドライフルーツでした。
「ドライにすると美味しさや栄養を凝縮することができて、日持ちも良い。しかも商品価値も上がる。果物って、特に梨なんかは食べ時が難しくて、旬の時期を外すとおいしくなくなっちゃうんだよね。ドライフルーツだと一番美味い旬の味を凝縮できるから、とてもいい」と確信し、商品化の道が開けたそうです。
ドライフルーツ作りが始まったのは2020年10月。その直前に本間さん夫妻が札幌から余市へ移住し、ドライフルーツの本格的な加工作業が始まりました。
現在の商品になるまでに数え切れないほど試作品を作ったという本間朋子さん。
「りんごのむき方、道具、厚さや形、どれが一番美味しいかを何度も比較検討しました。機械や皮むき器で剥いたものより、手で剥いたものが一番美味しかったんです。だから大変だけど、ぜんぶ手作業でこの厚みに剥いています」
一回に加工するのは20kgのコンテナを3箱分。この日は朋子さんと堀川さんの二人での作業です。専用の乾燥機に入れ、60℃で48時間乾燥。90%の水分を飛ばしてドライアップルとなります。
手間を惜しまず、丁寧に愛情をもって作る。
「できあがった時は、自分の子供を送り出すような気持ちになるんです」そう言って本間朋子さんは目を細めました。
余市への移住
2020年夏、ドライフルーツ作りの本格スタート直前、ご主人とともに余市へ移住した本間朋子さんと康弘さん。当時札幌在住だったご夫妻は、余市が大好きで毎週のように町内に通っていたそうです。
「本当に不思議。色んなご縁がここ(自然農園)に繋がってたんですよ」
移住のきっかけは朋子さんのママ友でもあった堀川さん。自然農園に町外から通勤していた堀川さんが、農園のさくらんぼ収穫のアルバイトに本間さんを誘い、農場に来たことが始まりだったそうです。
朋子さんにとって初めての収穫作業。農作業経験がない人にとって、果樹園での作業はなかなかハードなもの。けれど光差す果樹園での仕事、豊丘の環境に朋子さんはすっかり夢中になったそうです。そして澤田社長から、余市に根を下ろして仕事をしてくれる人を探していると聞き、迷わず手を上げたそうです。
それからの流れもトントン拍子。
「住まい探しも、引越もぜんぶスムーズで。あとで分かったんですけど、澤田さんの札幌の家が私たちの家の近所で。他にも色んな人が「自然農園」で繋がっていて。すごく縁を感じました。」
余市に移住した感想は?と朋子さん康弘さんにお尋ねすると、お二人揃って「言うことなし!!」と満面の笑み。
「余市『で』いい、じゃなくて余市『が』いい、なんだよね。」と康弘さん。「食べ物も美味しいし空気も海もいい。人もあったかい。余市に来てから仕事も休みの日も楽しくて、あんまり余市から出てないの」と朋子さん。
澤田さんも、「余市に居る二人に仕事を任せることができて、信頼が違うし、とっても助かってます」と笑顔です。
手描きのラベル
素朴なドライフルーツのパッケージ。印象的なのはりんごのイラストラベルです。
りんごの絵は澤田さんが色鉛筆や絵の具で描いたもの。りんごに愛情を持ち、長年向き合ってきた人だから表現できる温かみと繊細な色合い・形が表現されおり、目にするとワクワクします。
「このりんごの絵すごいでしょ?全部社長が描いたの!」誇らしげに話す朋子さん。一つ一つラベルを手で貼る様子も、子供の支度をしてあげるようなあったかさがありました。
届けたい人
この愛情たっぷりのドライフルーツを届けたい人は?という問いに、朋子さんがすぐに上げたのは、
「お年寄りや入院してる人。特に入院している人は便秘になりがちでしょ。ドライフルーツは食物繊維が豊富で手軽に補給できるし、冷蔵庫がいらないから保管が楽だし。それに子供のおやつとしても安心安全だし、災害の時の非常食にもおすすめ。軽いからお土産にもいいし。
ビタミンCが生のりんごの倍近くになるから美容や健康にいいのはもちろんなんだけど、果物が食べたいけどちょっとしか食べられないっていう人に、『ドライフルーツで楽しめるよ』って知ってもらいたくて」
「あとね、食べ方も色々お勧めがあるの。「炙りりんご」はスモーキーだからワインとすごい合うし、クリームチーズなんかとも相性いいよね。
王林はドライにすると甘みと酸味が濃くなるから、炭酸や、お茶と合わせてもいい。余市でしか採れない千両梨も食べてみて!」
弾む言葉が次々と溢れる。
熱い想いの内にあるのは優しさと、自分達の作ったもの、余市という土地への深い愛情と信頼。
「今後は農園で採れるすべての果物をドライフルーツにしたいんです。きっと待ってる人がいるから」
そう目を輝かせる本間さん夫妻の瞳は、もうすぐ訪れる春の日差しのように明るくきらめいていました。