【読み物】輝く笑顔から生まれる『みつろうラップ』 北海道余市養護学校

【読み物】輝く笑顔から生まれる『みつろうラップ』 北海道余市養護学校

この春、播州織Yoichiタータンと北海道余市養護学校がコラボした新商品、「Yoichiタータンみつろうラップ」が誕生しました。

「みつろうラップ」とは、蜜蝋(ミツロウ)のビーズを熱で溶かし、布に染みこませた布製ラップのこと。蜜蝋の抗酸化作用により野菜や果物などの食品が長持ちすること、洗って繰り返し使えること、プラスチックを使用していないことなどから、環境に優しい暮らしの道具として今注目を集めています。

 

 

余市タータンの赤い生地で作った蜜蝋ラップでバナナを包んでいる写真

 

 

余市の人と風土の物語、余市ストーリー。今回は、養護学校の生徒さんが心を込めて作る、「みつろうラップ」の物語。あたたかな雰囲気の制作現場を訪ねました。

 

 

青空を背景にした桃色の校舎の余市養護学校の写真

 

 

余市町の北西部に位置する梅川町にたたずむ優しい桃色の校舎。ここが制作の舞台、北海道余市養護学校です。

「みつろうラップ」は、学校の作業学習の一環として、中学部の生徒さんの手で制作されています。

 

 

みつろうラップを持って集まる少年達と女性の写真
みつろうラップを手にする生徒さんたちと筆者

 

光差す教室で

柔らかな光が差し込む学習室で、「みつろうラップ」作りは行われています。生地を一枚一枚裁断し、蜜蝋を並べ、アイロンプレスで蜜蝋を溶かして染みこませる。固まったらはみ出た蜜蝋を切り取って説明書とともに封入し、シールを貼る。

 

 

赤い余市タータンの生地に手で蜜蝋のビーズを置く少年の写真
一つずつ丁寧に蜜蝋ビーズを布に置くラップの仕上がりを左右する大切な作業

 

作業はシンプルですが、集中力と根気のいる仕事。皆さん真剣に、そして笑顔で楽しそうに作業に取り組んでいます。

感想をたずねると、「蜜蝋を置く場所が難しい。」「蜜蝋が溶けるところがすごかった。」「アイロンで溶かして完成しました。楽しかった!」「売れてよかった!使ってもらいたいです」と、笑顔で次々と答えてくれました。

人気の仕事は蜜蝋を布に並べる作業と、蜜蝋を並べた布にアイロンを当てて溶かす作業。

蜜蝋を適当に並べてしまうと、溶けた蜜蝋が布からはみ出しすぎて無駄になったり、ムラができたりするためコツがいる作業なのだそうです。

ラッピングのデザインも自分たちの手で。かわいいと評判のイラストや文字も、生徒さんたちの手描きです。

 

 

白い紙に描いたミツバチのイラストを手にピースをする少年の写真
ラベルシールのデザイン中

 

 

 「みつろうラップは『ハチ』、と思ったから描きました。」とイラストを担当した山下雅人さん。どの絵も下描きをせずにパッと描いたそうです。

 

 

白い紙に黒いペンで8匹のハチを描いた写真。チェックの生地を持ったり手を繋いだりしている
手を繋いだりYoichiタータンを持って飛んだり
可愛らしく楽しげなハチのイラスト

 

 社会と繋がるように

「みんな丁寧にできるので、子どもたちの方が上手なんです。休み時間も作業してくれたり、準備から片付けまで自分たちでやって」と目を細めて生徒たちを見る中学部の鎌田紫容子先生。

 

 

長テーブルの上でフィルムパッケージに完成したみつろうラップを入れる少年と女性の写真
シール貼りも人気の作業

 「みつろうラップ」作りは、中学部の取り組みとして、作業学習を通じ子どもたちに社会参加をしてほしいという、学校としての思いが始まりでした。

「作業学習では、ただ作業するだけじゃなく、自分のすることが何かに役に立っている、どこかに繋がっているということを実感してほしいと思ったんです。そんな時、Yoichiタータンという生地があることを知りました。」と鎌田先生。

 

 

教室で座って話す余市養護学校の先生の写真
作業学習を担当する鎌田先生

 

 

「みつろうラップ」作りの始まりは、さかのぼること一年ほど前。「私自身がハンドメイドのものや、オーガニックのもの、可愛いものが好きで。去年から校内で一人の生徒とみつろうラップを試作して、学校のなかでプレゼントしていたんです。その後、段階的に作業できそうだとなり、売ったりできるんじゃないかと思ったんです。」

 子どもたちに社会参加を、という学校の思いを聞いた観光協会は、Yoichiタータンのブランド商品を制作することはもちろん、成果の受け取りを経験してもらうことで本当の意味での社会参加となる、と、売上の一部を学校に寄付することを提案。体制が整い、「Yoichiタータンみつろうラップ」の制作が始まりました。

 

 

赤い余市タータンチェックの生地で作った蜜蝋ラップの写真
完成した「Yoichiタータンみつろうラップ」

 

 

本格的に作業が始まり、「『みつろうラップ』づくりが生徒たちにこんなにはまると思っていませんでした。」と笑顔の鎌田先生。「楽しい楽しいと言ってくれて。誰一人やけどや怪我などすることなく、丁寧にやっていました。ちょうど良い感じに淡々とやるので、向いているのかもしれません。」

 

作業学習が育むもの

 作業学習について、学校としての思いを鎌田先生に伺うと、「作業学習は週に2回。たった2回ですけど、友達同士で励まし合ったり、お互いの仕事を見て褒めたり、集中してやるようになったり、いろいろな力が身についたな、と実感したりと、分かりやすい学習です。

たとえば、作業学習では縫い物もしているのですが、最初は直線一本しか縫えなかったのに、最終的には丸いコースターを縫えるようになったりする。職業としてやるというより、人との関係とか、物を作ることとは、とか、いろいろなことを学びます。それがきっかけで、自信をもったり、できたものを見て成果を感じたりする。そのような経験が、前に進める力となるんです。」

 

 

教室の椅子に座りピースサインをする少年2人の写真
縫い物の作業中。様々な縫い模様の布を手に

 

 

限られた時間のなかで育まれるのは、物作りの技だけでなく、心。先生方や様々な人の見守りのなか、大きく広がっていきます。

 

生きていく力に

今後のビジョンはとの問いに、「『みつろうラップ』がいろいろなところで売られているのを見て、子どもたちに『自分たちが作ったんだよ』と言ってもらいたい。自分たちがこういうこともやった、と自慢できるようになってほしいです。」と静かに話す鎌田先生。

「私たちにとっては、仕事をしていく上で何十年のうちの一年ですが、子どもたちにとっては、義務教育のなかの大切な一年。ただ楽しく、だけだと勿体ないなと思うんです。年齢面でも、作業面でも、貴重な時間。この短い時間にできるだけいろいろな力を、幅広く身につけさせてあげたい。」

伝えたいのは、「生きていく上で、使える力。人に頼らなくても、ちょっとでもできること。楽しいと思うことがちょっとでも多い方がいい。子どもたちは、最初はできないってべそをかいたりすることもあるんですけど、時が経つと教えなくてもしっかりできるようになったり、上手くできるようになる瞬間がいっぱいあるんです。何でもかんでもできるようにとは思わないけれど、やれるにこしたことはない。

そういうことを積み重ねて、将来みんなが自分らしく仕事ができるように、応用できるようになってほしい。生きていく上で、本当の力になっていったらいいなと思います。それを一つでも増やしたいです。」

子どもたちの笑顔と、見守る大人たちの願いと。

静かで熱い想いの宿る、赤いタータンラップのお話でした。

(2023年3月取材 撮影・文 田口りえ)

 

 

余市タータンみつろうラップの上に置かれた、手描きの説明書の写真

北海道余市養護学校

〒046-0023 余市町梅川町377-3

TEL: 0135-23-7831

 

 

 みつろうラップ Mサイズ

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