【読みもの】探求と好奇心 農家のお母さんが作る『すぐりもぎ』のジャム まるまったファーム21

【読みもの】探求と好奇心 農家のお母さんが作る『すぐりもぎ』のジャム まるまったファーム21

余市川の西、緑豊かな山裾に農園が並ぶ豊丘エリア。静かな秋の日暮れ時、木造の納屋の一角から漏れるあたたかな明かり。扉を開けると、甘く優しいりんごの香りが漂う。農家のお母さんのジャム作りは、日没の頃から始まります。

 

 

夕暮れの空を背景に木製の倉庫が建っている写真

余市の人と風土の物語、余市ストーリー。今回は可愛らしい小瓶のジャムで人気の、まるまったファーム21の物語。探究心旺盛な宮野秀子さんが作る『すぐりもぎ』のジャムのお話です。

 

 

優しいピンク色のひみつ

「ジャム作りは昼間に畑仕事して終わってから夜に作るスタイル。夫が孫を見てくれたりするから、それから工房に来て、『さぁ作ろう』って始めるの。大体夜の8時くらいまで。」納屋の一角に設けられた工房でテキパキと作業しながら、秀子さんは話し始めました。

 

 

白い壁の厨房で白衣と白い帽子をかぶり携帯電話で話すまるまったファーム21の宮野秀子さんの写真

笑顔で電話に出る宮野秀子さん。いつも仕事の手が動いている

 工房はもともと果物の貯蔵倉庫でした。「3年くらい前に『出面(でめん)さん(農繁期にお手伝いに来てくれる人達のこと)』の休憩所だった場所を改装して工房にしたの。」秀子さんは以前から規格外のりんごをジャムに加工していましたが、専門家の本格的な指導を受けて工房や機材を整え、今の加工スタイルを整えていったそうです。

 

 

ステンレスの鍋に入った刻みりんごを木製へらで混ぜる写真
刻んだりんごを丁寧に煮込

 

 

今回作り始めたのはりんごジャム。「りんごの種類にこだわっていて、うちは『あかね』を使ってるの。レシピにはよく『紅玉(べにだま。こうぎょくとも呼ばれるが、余市ではべにだまと呼ぶ人も多い)を使う』って書いてあるけど、『あかね』がいいなって。みんなそれぞれだけどね。」

一つ一つ手でりんごの皮を剥き、刻んだ『あかね』を鍋で煮込みます。後から皮を入れて煮出すと、あたたかなピンク色のピューレができあがります。

 

 

ステンレス鍋のなかにあたたかみのあるピンク色のりんごピューレが入っている写真
『あかね』だから出る優しいピンク色

 

 

口に含むとふんわり甘く、後から爽やかな酸味が広がります。きれい。つぶやきに秀子さんは笑顔で応えます。

「きれいな色でしょ。私もこの色がいいなと思って。『紅玉(べにだま)』でやってもこの色は出ないの。『あかね』だから出るのね。ジャム作りのレシピにはよく『紅玉』で、と書いてあるけど、『あかね』が一番赤いから、いい色が出せるんじゃないかって。」

 

 

木製の木箱の上に置かれた4個のりんご、あかねの写真
 深く澄んだ赤が印象的な『あかね』

 

 

すぐりもぎ

「それにうちは『すぎりもぎ』で作ってるからね。」すぐりもぎとは?と秀子さんに尋ねると、「『選りすぐり』のものだけを木からもぐこと。手間暇はかかるけど、美味しい状態のものだけをとれるの。その反対が『狩り(がり)もぎ』。ある程度色づいたら、いっぺんに全部もぐの。」果実は日の当たり方などで、熟し方にむらが出ます。そのため一度に全部『狩りもぎ』をすると、作業としては効率的なものの、色や味にむらが出てしまうのだそうです。

「うちの夫は畑に入って『すぐりもぎ』して、4~5日してまた入ってもいで。それを5~6回やるの。手間暇かかるけどね、それが美味しいの。」

 

 

りんごの木の隣に立つ女性の写真
「昼間の畑もぜひ見て」と案内する秀子さん

 

りんごとともに

秀子さんは小樽市出身。37年前にご主人の安民(やすひと)さんと結婚したことが、余市との縁の始まりでした。それまで農家とは縁がなかったという秀子さん。

「農家っていうと朝から夜まで泥々になって仕事するイメージだったけど、りんごはそんなことないし。はしごに上ったり下りたりして、面白いなという感じでやってたねぇ。それに義理の両親がとっても良くしてくれて。夜は早く終わるしね。

 夏も冬も朝は3~4時に起きて、土日も関係なく過ごしてるの。冬も朝は雪割りしたり、雪投げしたり。日が昇ってきたらちょっと休んだりしてまた仕事。」

 

 

倉庫で並んで立つ青い服のまるまったファーム宮野さんご夫妻の写真
 安民さんと秀子さん

 

 

 「農家なので三食お父さんと一緒。それもまたね、苦にならないの。朝終わったら、お昼何しよう?という感じ。外に行きたいという訳でもなく、ま、こんなもんだと言う感じ。」と、笑いながら納屋で話してくれました。

納屋に並ぶのは木製のりんご箱や竹かご。重さや耐久性の面から、今ではほとんど見られなくなりました。「収穫の時はプラスチックのかごが軽くて楽だけど、貯蔵のための保存はやっぱり木の箱がいい。木の納屋で貯蔵すると味がいいんだよ。」そう安民さんが教えてくれました。

 

 

木製の倉庫で話す青い服の宮野ご夫妻の写真
木の香りがするどこか懐かしいファームの納屋

 

 

 

探求と好奇心の先に

まるまったファームさんのジャムで印象的なのは、可愛いらしい小ぶりの瓶。このサイズ感がちょうどいいと、種類違いで買う人も多いそうです。

 

 

テーブルに置かれた2個のジャムの写真
手の平に2つ乗るサイズ

手の平に2つ乗るサイズ

「前に役場の人と札幌でジャムを出店した時、『ジャムって瓶が大きいと、ちょっとだけ底に残って冷蔵庫にずっとあるよね』って話になって。それで小さい瓶にしてみたの。瓶もラベルもかわいいでしょ。ラベルは工房を作ってくれた大工さんがデザインをやっていて、その人が全部やってくれて。私は気に入ってるの。」

ちょっとした言葉をヒントにして形にする。自分の完成を大切にする。軽やかでアクティブな秀子さん。「私はあれこれ考えるより、思いついたらまずやってみるの。やってみてダメだったら、さて次どうしよう、って行動するの。」

りんご畑の隣の畑には、食用ほおずきやヘーゼルナッツなどが植えられていました。面白いなと思ったら取り寄せて、栽培してみるそうです。「ナッツは実が実るまでに7年かかるの。どんな味になるのか楽しみ。」秀子さんは楽しそうに話してくれました。

 

 

青空の下に広がるりんご畑の写真
山裾まで広がる果樹園と畑

 

 

 最近話題になったのは新作の茄子のジャム。アイディアの源を伺うと、「ある日農作業中にラジオを聴いていたら『茄子でジャムができますよ』と言っていて。『茄子のジャム?』と思って調べたら、レモンを入れるといいと書いてあって、皮を剥いて作ってみたの。そしたら美味しい、となって。」

 

 

瓶に入った茄子のジャムの写真
茄子のジャム。りんごのような味わいと茄子の食感が不思議と合う

 

 

これから作りたいものを伺いました。「アロニアのジャム。アロニアは渋みが強くて、何回やっても納得のいく出来にならなくて。渋みを取り除くのに何回か冷凍すればいいと聞いて試したり、美味しいと聞いたジャムを取り寄せて食べてみたり。糖度なんかも色々調整したりね。食べ方に寄っては糖度が高い方がいいし。この冬研究しようと思ってるの。」

「いつも、なんかいいのないかな?と探してる。うちは果物がたくさんあるから、ハネ(規格に合わず取り除かれるもの)もなんとかしたい。たかがジャム、されどジャム。なるべく余計なものは入れないで、美味しいものを作りたい。」

よりすぐりの果物から作る、秀子さんのジャム。より良いものを求めて、アクティブなお母さんの探求はこれからも続きます。

 

 

りんごの木が奥へ向かって並ぶまるまったファームの果樹園の写真

まるまったファーム21

〒046-0013 余市町豊丘町1094

TEL・FAX:0135-22-4022

撮影・文 田口りえ

 

ホームメイドジャム りんご

 

 

まるまったファーム21 ホームメイドジャム 茄子
ホームメイドジャム 茄子

 

 

まるまったファーム21 ホームページ プルーン
ホームメイドジャム プルーン

 

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